【感染性腸炎】
感染性腸炎は病原微生物がひとの腸管内に侵入し、定着し増殖して発症する病気の総称です。原因としてはウイルス、細菌、寄生虫などがあります。
原因になる病原微生物は非常に多いため、細かい説明は割愛しますが感染症法による報告数が最も多いのは、腸管出血性大腸菌感染症(O-157など)で3000-4500人/年です。
また食中毒の届出件数が最も多いのは、ウイルス性ではノロウイルスで約1万1000件/年(2009年)です。
細菌性ではカンピロバクターで約2200件/年でした。
実際にはもっと多くの患者がいると類推されています。
軽度の下痢では医療機関を受診しないですし、受診をしても下痢患者の全員に便の培養検査などを行うわけではありません。また食中毒と判断されなければ報告されることもありません。
カンピロバクターで推計150万人/年の感染者がいると言われています。
また病原微生物が体内に入って、症状が出るまでの潜伏期も様々です。
潜伏期の短い黄色ブドウ球菌は1-5時間です。直前の食事が原因となります。サルモネラやノロウイルスなどの潜伏期は2日以内とされています。
潜伏期の長いものは、カンピロバクターや腸管出血性大腸菌感染症(O-157など)です。
カンピロバクターでは2-10日、腸管出血性大腸菌感染症では4-14日です。ここまで長いと、患者さんは食中毒だと気が付かない可能性があります。
潜伏期がさらに長いのは、アメーバ赤痢で2-3週間です。最近、このアメーバ赤痢は性感染症としても注目を集めています。
また上記の潜伏期間を考えると、医療者から「気になる食事などはありましたか?」と問われれば、かなりさかのぼって答える必要があることが分かるでしょう。
原因の病原体により症状も様々ですが、一般的には下痢や嘔吐、腹痛、発熱、血便や便の色調変化などがあります。
感染性腸炎の診断です。
問診を主軸に、重症度なども考慮しながら血液検査や便培養検査を行います。
また場合によっては大腸カメラが診断に有用なこともあります。CT検査で特徴的な像を呈する感染性腸炎もありますので、CTも有用と言えます。
感染性腸炎の治療です。
一般的には自然治癒するものがほとんどであるため、まずは対症療法を行います。
脱水があり、嘔気などで口からの水分の摂取が困難な場合は点滴による水分補給が必要になります。
感染性腸炎の下痢に対して、下痢止め(止痢薬)を処方する医療機関も以前はありました。
しかしながら下痢止めは毒素や病原微生物を腸管内に長くとどめることになるため、病態の悪化を助長する可能性があります。危険なのです。
ですので、感染性腸炎が疑われる場合には下痢止めは処方することはなくなりました。
また抗菌薬については病原体や、患者さんの背景因子(年齢やお持ちの病気など)を考慮して、適応を決めることになります。
少なくとも、ノロウイルスなどのウイルス性感染性腸炎には特効薬はないと言えます。