逆流性食道炎と咳は関係があるのか
咳症状は逆流性食道炎と密接に関連しています。
逆流性食道炎は、胃内にある胃酸や胆汁が食道内に逆流することで胸やけや胸痛を引き起こす病態ですが、咳を起こすメカニズムとしては後述する2つが考えられています。
- 胃内からの逆流液が食道上部まで上がってきて、喉や気管を刺激し、咳症状が出る。
- 胃内から食道下部までの軽い逆流でも、食道内の知覚過敏による体の反応として咳を引き起こす。
逆流性食道炎患者さんの中で咳症状がある場合、多くのケースは②の知覚過敏による咳が多いことが知られています。
知覚過敏が咳症状を引き起こす例として、心臓の疾患で不整脈がある患者さんが、不整脈による動悸症状・胸部不快感を咳として表現することが知られています。
このように、逆流性食道炎による咳も同様に、胃酸逆流による胸部不快感を咳症状として描出すると考えられています。
しかしながら、実際には咳自体は逆流性食道炎の患者さんの症状としてはそれほど多くはなく、あくまで咳は一つの随伴症状と考えられております。
他の原因による咳とどのように区別するか
逆流性食道炎に伴う咳を、他の原因による咳(風邪や肺炎など)と区別する方法について説明します。
逆流性食道炎による咳は、主に胸やけや胸痛といった胃酸逆流症のメインの症状に随伴して現れることが多いです。
つまり、逆流性食道炎の主症状である胸やけや胸痛が同時に存在し、その症状に伴って咳が出る場合、逆流性食道炎による咳である可能性が高いです。
また、逆流性食道炎患者の咳は主に空咳です。
痰を伴ったり、黄・茶色い痰が出る場合は、呼吸器疾患(風邪や肺炎など)である可能性が高いです。
夕方から夜にかけて、咳がひどくなる理由
逆流性食道炎に伴う咳が夕方から夜にかけてひどくなる理由は主に以下の二つです。
- 重力の影響
夜間、横になった場合、立位や座位に比べて重力の関係で食道内に逆流する頻度とボリュームが増える。
- 自律神経の影響
夜間になると副交感神経が優位になり、それに伴い気管支の収縮や知覚過敏性が高まるため。
上記の要因が組み合わさることで、夕方から夜にかけて逆流性食道炎に伴う咳がひどくなると考えられています。
逆流性食道炎による咳の止め方
逆流性食道炎に伴う咳を止めるためには、以下の方法が有効です。
- 胃酸分泌を抑制する薬の使用
胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーなど)は、逆流の頻度やボリュームを減らすため、咳を軽減する効果があります。
- 食道や消化管の運動を促進する薬の使用
消化管の運動を促進する薬(セロトニン受容体作動薬)は、胃内容物の逆流を防ぎ、咳の発生を抑えるのに役立ちます。
- 知覚過敏を減らす薬の使用
知覚過敏を低下させる薬(抗うつ薬)は、食道粘膜内の知覚を低下させるため、逆流液の刺激に対する反応を抑えることができます。
市販薬の咳止めは、咳の原因が呼吸器系疾患(風邪、気管支炎、肺炎など)の場合には有効ですが、逆流性食道炎が原因の咳症状には効果は認められません。
文章 ~医師 中川~