非びらん性逆流症と、24時間食道インピーダンスpH検査について
当院では2023年春に「24時間食道インピーダンスpH検査」を導入しました。
胸やけの診断においては非常に重要な検査になりますが、聞いたことがないひとも多いと思います。
全国的にも導入をしている医療機関が少なく、珍しい検査機器です。
特に「特効薬(プロトンポンプ阻害薬)をちゃんと飲んでいるのに、胸やけなどに苦しんでいる」という方に重要な検査です。
24時間食道インピーダンスpH検査の重要度を理解するためには「非びらん性逆流症(NERD:non-erosive reflux disease)」という病気の理解を深めて頂く必要があります。
そのため、ここではNERDの解説を中心にお話します。
非びらん性逆流症(NERD:non-erosive reflux disease)にとは?
「逆流性食道炎」という言葉はよく耳にすると思います。また「GERD(ガード)」という言葉もしばしば使われる用語です。
これらの用語の定義って実は少しややこしいですが、重要なことなので少し解説します。
「胃食道逆流症」がGERD(gastroesophageal reflux disease)です。
そのGERDのなかで、内視鏡でみると食道に傷(=びらん)があるタイプを「逆流性食道炎」と呼びます。
GERDのなかには「胸やけなどの症状はあるが、内視鏡でみても傷(=びらん)が無いタイプ」もあります。それを「非びらん性逆流症(NERD)」と呼びます。
「逆流性食道炎」と「非びらん性逆流症(NERD)」ですが、実はこの2つの病気はまったく別の病気(病態)ではないかと考えられるようになってきています。 それもあって、こんな「ややこしい」分類がされているのです。
逆流性食道炎と、非びらん性逆流症(NERD)は別の病気?
そもそも、患者さんの特徴に違いがあります。
逆流性食道炎のひと | 男性に多い、高齢者に多い、肥満や喫煙がリスク因子、プロトンポンプ阻害薬がよく効くことが多い |
---|---|
非びらん性逆流症(NERD)のひと | 女性に多い、痩せているひとに多い、食道裂孔ヘルニアの合併が少ない、プロトンポンプ阻害薬が全く効かないひとの割合が逆流性食道炎に比べて多い |
よくあるパターンは「内視鏡ではごく軽度の逆流性食道炎と言われて」「そのの特効薬だという薬を飲んだけど…全然効かないし」などです。
こんな患者さんのなかには「実は正確にはNERDの診断です」というひとがいらっしゃると思いますよ。
非びらん性逆流症(NERD)にもタイプがある
さらにややこしくしてるのが、このことです。
しかし、定義づけって病気の理解に非常に大切なので解説します。
なんとかついてきて下さい。
非びらん性逆流症(NERD)には3つのタイプがあります。
- 狭義のNERD
- 逆流過敏性食道
- 機能性胸やけ
この3つです。
病態(原因)の違いから分類したものになります。
ですので、この3つには症状や内視鏡の見た目には違いはありません。
「胃酸は食道へ異常といえるレベルで逆流しています」というのが、①の「狭義のNERD」です。
「異常というほどの胃酸逆流は起こっていないけど、その少量の逆流に食道が過敏に反応してしまっています」というのが、②の「逆流過敏性食道」です。食道の知覚過敏ですね。
「そもそも逆流現象とは無関係に胸やけなどの症状が出ていますよ」というのが、③の「機能性胸やけ」です。もっとも驚きのパターンですね。
しかし、病態(原因)が違えば、当然ながら治療方針も変わってくるので、ここをきちんと3つに区別しておくことは非常に重要です。
NERD診療における内視鏡検査の位置付け
医師は患者さんから症状をお聞きすると「あ、高い確率で胃食道逆流症(GERD)だな」と判断できることが多いです。しかし診療の早いタイミングで「胃カメラ」をしませんか?と必ず勧めます。
内視鏡検査の主な目的は2つです。
- GERD以外の、心配な病気を否定しておくため(食道癌や好酸球性食道炎など)
- 逆流性食道炎なのか?NERDなのか?をはっきりさせるため
最新のガイドライン(参考文献参照)でも「内視鏡」を行わないフローチャートは存在しません。
「胸やけがあるけれど、胃カメラはやってません」という患者さんがいらっしゃれば、内視鏡検査を受けましょう。
NERDに対する一般的な治療方針
まずはプロトンポンプ阻害薬を4週間ほど内服して頂きます。満足する効果が得られなかった場合は、消化管運動改善薬や漢方薬を併用します。
一般的な治療を行っても、満足するだけの薬剤効果が得られなかった場合には「24時間食道インピーダンスpH検査」を検討することになります。
(やっとここで登場です)
あなたの食道で起っているのはNERDの3タイプのいずれなのか?をはっきりさせる必要があります。
「狭義のNERDなのか?」
「逆流過敏性食道なのか?」
「機能性胸やけなのか?」
24時間食道インピーダンスpH検査を行うことによって、ここを明確にし、再度治療方針を立て直す必要があります。
例えば、こんな研究結果が報告されています。
プロトンポンプ阻害剤を倍量飲んでも症状が変わらないNERD患者さんのうち、52%のひとは逆流と症状に関連がなかった3)。
24時間食道インピーダンスpH検査の流れ
Step1
当院で内視鏡検査を行っていない場合は、まずは内視鏡の検査を行いましょう。
Step2
内視鏡の結果や薬剤での治療の経過などを鑑みて、24時間食道インピーダンスpH検査の適応があるのかを医師と相談しましょう。リスクなどの説明もこの時に行います。
Step3
検査の前は6時間の絶食になります。
Step4
検査当日、クリニックに来て頂き鼻からチューブ(センサー)を入れます。チューブは非常に細く2mmほどです。
Step5
チューブがきちんと留置されていることをレントゲンで確認してから帰宅となります。食道内のインピーダンスやpHの24時間モニタリングがスタートします。
Step6
お風呂は禁止ですが、いつもどおりの生活を送って下さい。食事もとって頂きます。腰につけた本体にデータは記録される仕組みです。
Step7
翌日、クリニックに来院頂き、チューブを抜去します。
Step8
結果は2週間前後でお伝えします。
費用
2013年から日本でも保険収載されています。
1割負担 | 2000円 |
---|---|
2割負担 | 4000円 |
3割負担 | 6000円 |
注1) 上記以外に通常の診察代がかかります。
注2) 現時点では保険診療で対応していますが、既定の保険点数のみでは消耗品も賄えずクリニックとしては赤字になる検査です。今後は自費診療への切り替えを行う予定です。
記載:理事長 山岡肇
参考文献
1)胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021 編集 日本消化器病学会
2)消化器内視鏡 Vol.35,No5 May 2023
3)I Mainie ,R Tutuian , S Shay, M Vela, X Zhang, D Sifrim, D O Castell. Acid and non-acid reflux in patients with persistent symptoms despite acid suppressive therapy: a multicentre study using combined ambulatory impedance-pH monitoring. Gut. 2006 Oct;55(10):1398-402.