内視鏡コラム 【内視鏡と鎮静剤】
皆さん、こんにちは。
仙台消化器・内視鏡内科クリニック院長の山岡です。
今回のコラムでは、内視鏡検査を行う際に使用する<鎮静剤>についてお話をしていきたいと思います。
そもそも鎮静剤ってなに?
鎮静剤とは、いわゆる<麻酔薬>のことです。内視鏡検査は物理的に人間の身体に負担が掛かってしまうので、楽に検査を受けて頂くために鎮静剤(麻酔)を使用します。ほぼ眠った状態で検査を受けることができるので、「気付いたら検査が終わっていた」ということになる訳ですね。
この鎮静剤を使用した内視鏡検査というのは、最近では一般的ではありますが、世間に普及してきたのはここ数年でのお話です。それまでは鎮静剤を使用せず、意識がはっきりとある中で検査を行っていました。 そうなると、胃カメラ検査であれば咽頭反射(スコープが喉に当たって「おえっ」となること)が起こって苦しいですし、大腸カメラ検査であれば痛みを感じて辛かった訳です。
これが、<内視鏡検査=苦痛>という図式が出来上がった原因ですね。
鎮静剤にはどんな種類があるの?
内視鏡検査で使用する鎮静剤には、主に3つの種類があります。
鎮静剤① <ドルミカム>
この<ドルミカム>が内視鏡検査で使用する鎮静剤としては最も一般的なものになります。抗不安・鎮静・睡眠作用を併せ持つ薬剤です。安全性は高い薬ですが「薬が効きにくく、覚めにくい人」も存在します。
鎮静剤② <プロポフォール>
当院で使用している鎮静剤は、この<プロポフォール>がメインです。鎮静効果の持続時間も2~20分程度と非常に短いため、検査終了後にすぐ目覚めることができるというのも利点です。また持続時間が短いので、安全性の高さにも定評があります。
さらに鎮静効果にブレが無いため、ドルミカムでは効きが弱いという方にも有効です。
鎮静剤③ <デクスメデトミジン>
この<デクスメデトミジン>の最大の特徴は呼吸への影響が少ないことです。しかし薬剤の効果を得るために「ローディング」という血中濃度をあげる作業が必要です。一般的には内視鏡”治療”の場で使用される薬剤です。内視鏡”検査”の場では使用されません。
鎮静剤を使用するメリットとデメリットは?
それでは、鎮静剤を使用することによって生じるメリットとデメリットを整理してみましょう。
メリット① <眠っている間に検査が終わる>
上述の通り、鎮静剤を使用することによってほぼ眠っている状態で検査を受けることが可能になります。そのため、苦しい思いをしたくないという方や、痛いのが苦手という方には、鎮静剤を使用するメリットは大きいと言えます。
メリット② <病変の見落としを防げる>
「嘔吐反射がない状態」で「性能の高い内視鏡」を使用することが出来ます。患者さんがげーげーと吐いている状態では、微細な病変を見つけることは出来ません。また内視鏡の性能は「太さ」に依存します。内視鏡が細くなれば、楽に検査は可能ですが、その「細さ」は画質を犠牲にしています。最高レベルの画質を得ようと思えば、今でも内視鏡は太いのです。
鎮静剤を使用すれば「嘔吐反射がない状態」で「性能の高い内視鏡」を使用することが出来ます。当然ながら病変の見落としは減るでしょう。
メリット③ <医師に心の余裕が生まれる>
いかに医師とは言っても、検査を行うのは人間です。内視鏡検査時に患者さんが苦しそうにしていれば当然焦りも生まれますし、時間的な制限が発生してきます。ですが、鎮静剤を使用し患者さんが眠っている状態であれば、こういった環境に左右されることなく検査を冷静に行うことができます。それにより、検査をより正確に進行することで、病変の見逃し率を低下させることができます。
デメリット① <車での帰宅ができない>
鎮静剤を使用した場合には、検査終了後に車を運転して帰宅することは非常に危険であるため禁止事項です。交通手段が車しかない方の場合、タクシーを利用するなどといった交通の手配をする必要があります。
デメリット② <副作用が発生する恐れがある>
鎮静剤は、勿論<医薬品>です。全ての医薬品には副作用が起こる可能性があるため、鎮静剤も等しく副作用が起こる可能性はあります。当然ながら医師も細心の注意を払って鎮静剤を使用しますが、この<副作用が起こる可能性がある>というのは、デメリットの一つと言えるでしょう。具体的にはアレルギーや呼吸抑制、血圧の低下などです。
結局、内視鏡検査を受けるときには鎮静剤を使った方がいいの?
結論から言うと、私がオススメするのは
<鎮静剤を使用した内視鏡検査!>
ズバリこれです!圧倒的に鎮静剤の使用をオススメします!
というのも、やはり<ベストな内視鏡診断に繋がる>というのは患者さんにとって一番大きいメリットだと感じるからです。「苦痛を取る」ために鎮静剤をお勧めするわけではありません。
交通手段が制限されることや副作用が発生するというのは確かにデメリットかもしれませんが、内視鏡検査は人生でそれほど頻繁に受けるものではありません。であれば、検査日は公共交通機関やタクシーを使用するというのも許容範囲内だと思いますし、副作用も全医薬品において可能性があることですので、これもお薬を服用するのと大差はありません。
となると、やっぱり<いかに質のいい内視鏡検査をうけるのか>というのが重要だと思います。
また現状では、<内視鏡検査=苦痛>という世に定着してしまった図式によって、内視鏡検査の受診率はまだまだ低い状況にあります。 しかしながら鎮静剤を使用して検査を受けた患者さんは「とても楽だった」とおっしゃいます。
「内視鏡検査は苦しくないんだ」ということを皆さんに体験して頂き、一人でも多くの方に定期的に検査を受けて頂くこと、それによって健康で幸せな生活を送って頂くことが、内視鏡医である私の願いです。
皆さん、今回のコラムはいかがでしたでしょうか。
実際に皆さんが内視鏡検査を受ける際には、参考にして頂けると非常に嬉しいです。
それではまた、次回のコラムでお会いしましょう!!